walking on air(学園パラレル)

「walking on air」


 休憩時間中の教室は喧騒に満ちている。問題児ばかり集まったと噂の特別進学クラスも例外ではない。

「まーくん、そっちに行ったぞー!」
「Ah……受けて立つぜ」

 呼ばれた政宗は青い金属バットで肩を軽く叩きながら、慶次の声に手を挙げて応えた。獲物から目を逸らさずに、じりじりと距離を詰める。
 獲物は今、元親の鞄に止まっている。かさかさと動く相手を刺激しないように近付く、が。

「あーっ!政宗てめ、俺のカバンごと殴る気だろ!」
「うっせえ!とーといぎせいだバカチカ!」

 元親の必死な叫びに反射で悪態を返してしまう。

「「あ……」」

 顔を合わせて呆然となる。今は、追いかけていたのだ。

「Fucked up……!Fuck you fuking fuck!!!」
「わ、わり……」

 勿論大声で叫び返したのだから、獲物は逃げ出してしまった。教室内に不吉な羽音が響くと、虫は元親の鞄から移動する。女子の悲鳴や男子の叫びが更に大きくなった。
 政宗は元凶たる元親の首を絞めながら目で虫を追いかける。幸いにしてと言うか、不幸にしてと言うか。獲物はまだこのクラスから出ていく気はないようだ。
 即席で作られた対策委員会は作戦の練り直しを始めた。

「やっぱ普通に殺虫剤だよ」
「んなもの誰も持ってねぇっつーの」
「ちかちゃん買ってきて」
「売店で売ってたっけ?」
「売っているわけがなかろう」

 ため息と共に口を挟んだのは、作戦会議の舞台にされた机の持ち主である。
 数学書から顔を上げ、呆れたように三人を見た幸村は眉を顰めた。政宗はその表情に怯んでしまう。

「だいたい金属バットで叩き潰そうとするのが間違いだと思うが」
「……景秀をバカにすんな」
「そうではない。普通に不要な紙などで掴めば良いだろう」

 もっともな意見に揃って黙り込んでしまう。
 そうこうしている間に獲物は元就によって窓の外に捨てられてしまった。



「…………政宗」
「……んだよ」

 放課後、部活に励む幸村を待ちながら外を見ていた。合気道部は部員がいない。勧誘をしている様子もなく、それでも部から降格しないのは学園の七不思議だが、実際は創立以来ずっとある部活だからなのだそうだ。幸村からそう聞いた。
 その幸村は今は道場を閉めている。

「先に帰っても構わぬと言っている」
「俺が待ってたいんだよ」
「…………ああ」

 夕暮れの校庭には誰もいない。手を取れば幸村は視線を一度揺らがせてから受け入れた。校門をくぐるまでだけ、手を繋ぐ。
 いつものことながら、幸村はまだ慣れてくれない。

 彼とこういう関係になったのはかなり前だ。たまに日本に帰ってくるたびに会っていた少年。お互い恋だと気付くのは物理的な距離のせいか早かった。
 高校は日本で、と決まったため幸村と同じ高校に入りたいと言えば、幼なじみという関係のせいかすんなりと親は納得してくれた。知り合いがいるほうが馴染みやすいだろうとのことらしい。有り難かったが、やはり少しだけ罪悪感を感じる。

「しかし、今日も騒がしかったな」
「Yeah……ま、あんなもんだろ」
「あれだけ騒いでおいて、呆気ない終わりだ」
「幕を引いたのが元就だからな」
「違いない」

 くすくす笑う幸村の手を強く握ると校門を出た。名残惜しく手を離そうとしたが。
 校門の向こう側に引き入れられる。

「待っていてくれて……嬉しい」

 政宗の胸に額をあてて言った幸村。その姿に愛しさがこみ上げる。素直じゃない照れ屋な彼は、言うタイミングをずっとはかっていたのだろう。
 素早く誰もいないことを確認すると顔をそっと上げさせる。紅い頬に微笑むと、額に接吻した。

「アンタと二人きりになれるんだったら、苦でもねえよ。見てるのも飽きねえし」
「なら……良かった」

 ようやく笑った幸村と一緒に笑う、そんな時間が大切だ。そのためならなんだってできる。

「帰るぞ」
「ああ」

 そうして、二人で暗くなった町並みへと歩きだした。




青春LOVE!みたいな。筆頭はあんまり日本語が得意じゃない設定。