永遠ならんかや(魔術師パラレル?) 塩の河(現代パラレル、コレの続き) prurient gravitation(UCWパロ)
slipslop(現代パラレル・死ネタ) ディアマンテの毒(現代パラレル、爆弾魔と毒殺魔)

「永遠ならんかや」


 輪廻転生の輪を閉じて、息を零す。僅かなリンクの中で、彼がまどろみのなか身じろいだのを知った。
 世界は永遠を繰り返し、積み重なりつつもウロボロスの輪に組み込まれていく。クロノスに見捨てられた星幽体など、誰も必要としない。シフトすると彼が眠っているのが見える。
 本来なら、あの体に入るのは自分だった。しかし前世での業が深すぎて、破壊と再生と創造を許されなかった自分はこの時の牢獄に鎖されたのだ。途方もなく長い星幽界での彷徨を経てようやく物質世界に多少なりとも干渉できるようになった頃には、すでに身体は別の誰かのものとなってしまっていたのだ。
 新しく作られた燃える焔のような魂。なんと美しいのだろう。すでにエーテルも捨て、物質世界に直接的な影響は及ぼせない。そんな自分にすら見える焔の揺らぎ。
 触れられたら、と思う。だが、触れられない、とも思う。こんな頼りない星幽体では焼かれてしまう。
 それに、クロノスの流れからの追放などという重い罰を受けるほどの罪を背負った自分では、彼に決して触れることなどできない。

 あれを創り出した何かは(大方クロノス自身だろう)、自分があの身体に執着していることを知っていた。再びあの身体を得ないために、あの魂はあそこにいるのだ。
 それが新たな執着を作るとは、さすがの神も見抜けなかったのだろう。
 否、と思う。
 この執着は、人以外には持ち得ない強さと激しさと程度の低さを持っており、それが故に超越者たちの堕落とそして昇華の糧となるのだ。神にない、人間だけが唯一持つ執着という醜い感情。

 神に成ろうとして己は罰せられた。世界の創世者であるという傲慢に逆らったために。隠秘学の求道者の最大の欲望にして最大の禁忌を犯したために。
 しかし、人でなければいけなかったことにいまさらながら気付く。欲望を捨て去ることができないならば、欲望のままに赴くだけだ。堕することもなく、神でも悪魔でもなく可能性の塊としてまた現世に降りよう。それが神を出し抜きあの焔を手に入れる道だ。




幸村の身体=本当は筆頭のものみたいな感じで永遠に二人でぐるぐるしてるだけーとかそんなような感じ。



「塩の河」前の話


 もしも永久が彼の手に落ちたとしたなら、それはそれで不幸な話だ。
 幸村はそう思いながら、恋人――それは少しだけ間違った関係だ――の伊達政宗を見遣った。彼は先ほどから彫像のようだ。微動だにしない。
 自分は彼にすべてを見せた。それは彼にとってひどく恐ろしい現実となったようだ。信じていた正義が崩れ落ちていくパラダイムシフト。ただし、と幸村は言う。

「俺は、この力を使ったことはない」

 顔を上げた政宗は、紙のように白い顔をしている。

「義父が時々電話で独り言をこぼすことはあるがな。俺はここに帰ってくることはないし、表面的にはまったく切れている」
「……なんで…………」
「ある人を救おうとして俺は正道を選び、そして失敗した。ただ俺自身はこの仕事が好きなんだ」
「お前が、追っているのは」
「知っているだろう?義父の組はほぼ解散しているようなものだ」

 そうだ。跡継ぎにと望まれて養子に入った幸村は組からすればもういない。義父も組の人間たちもいまだに幸村を家族として扱ってくれるが、彼らの家を壊したのは自分で、屋台骨がいない組は用を成さない。
 義父は隠居の準備に入り、一部は堅気に戻っている。

 次期組長は警察へと入り、そして暴力団を追う警官となった。それを彼らがどれほど複雑な思いで見ていたかはわからない。ただ幸村には目的があった。
 道を別った人を思い出す。

「俺は、政宗に俺と同じ思いをして欲しくないのだ」
「なんだと」
「入るぞ」

 すでに連絡はしてあるため誰も出てこない。それを確認し、昔幸村が使っていた離れに入る。躊躇っていた政宗も恐る恐る入ってきた。

「ここならば盗聴も誰かに聞かれる心配もない」
「そのために……」
「政宗には、知っていて欲しかった。……それはともかく、俺は幾つかの真実を知っている。それは小十郎殿から口止めされているものだ」
「なんで……ッ」
「……政宗を、小十郎殿も俺も危険に晒したくなかったのだ」

 彼の地位は強さに反して脆い。堅気ではない自分たちは表の世界で政宗が失脚するのを指を咥えて見ている事しかできない。それならば最初から蚊帳の外に置いてしまえばいいと、彼にとっては残酷な決断をした。
 だが、もう彼をそのままにしておけはしない。
 あの男を追い詰めるには政宗の力と幸村の人脈が必要なのだ。政宗が安らげる場所を作るためなら、幸村は何をすることも厭わないと誓った。この、今までは。

「小十郎殿は監禁されている。松永久秀の手によるものだ」
「な」
「久秀はこっちでは有名でな。欲しいと思えば、絶対に手にしようとする」

 よりにもよって、久秀が目を付けたのは小十郎の忠誠心なのだ。政宗に対するその絶対的な服従を欲した。

「面倒な男だ。自分に対する忠誠を求めているのではないからな」
「何がしたいんだ……ッ!」

 声を荒げた政宗を見て、幸村は苦笑した。
 あの頃の自分も、きっとこんな顔をしていたのだろう。大切なものを失う焦燥感は強く人を動かしてしまう。失わないことこそが絶対であるかのように錯覚させてしまう。
 俯けば磨きぬかれた座卓が目に入る。どうすれば、うまくいくだろう。政宗が傷つかない、一番綺麗な方法が欲しい。すでにもう傷つけてしまったそれを癒してそのまま終わるような。そんな方法などあるはずもない。

 だからこそ、こんな賭けに出たのだ。

「さて、大方の俺の考えは解っていると思う」
「幸村」
「もちろん、政宗との繋がりは細心の注意を払って消す。俺が元のポストに戻れる可能性は低いが、まあ仕方あるまい」
「おい、幸村」
「出入りを装い松永の邸宅を潰すぞ」

 息を飲んで幸村を見つめる政宗に笑いかける。こんなにも政宗に救われているのに、こんな方法でしか返せない自分が憎い。捧げられるのはいつだってこの身一つだった。
 離れの戸を開け放つ。門までの道に整列した男たちが幸村に礼をする。新しい組長の、最初で最後の出入りが始まる。ある者は嬉しそうに、ある者は切なそうに、ある者は気遣うように。その間を歩き始めた幸村はもう、公僕の顔をしていなかった。

「行くぞ」

 笛吹きのように男たちを従えて、組の長たる品格を漂わせ、真田幸村が門を抜けた。
 後に残されたのは苦しい顔で俯く隻眼の男。




筆頭ヘタレ&幸村女王様&警官最高祭り。



「prurient gravitation」(ガンダムネタです、U.C.132年辺り想定)


 木星航路はいまだに危険が多い。確かに一年戦争時代からは技術は進歩し、木星圏にまでコロニーが作られるようにはなった。しかしそれでも、地球圏からは遠い。時間がかかると言うことは予期せぬ事故に遭遇する確率も高くなるということだ。
 そう、今のように。

「Shit……、なんだ、コイツらは」

 突然現れた二機のMS。艦橋をのぞき込むように動くそれに、政宗は眉を顰めた。
 艦長の小十郎も首を傾げる。

「最近流行りの宇宙海賊ではないようですが、見慣れぬ機体です」
「白旗持ってやがんな……出る。カタパルト用意しろ」
「な……危険です!」

 腰を浮かせたオペレーターを手で宥めると政宗は艦橋の出口へ向かう。小十郎は諦めているのか、MSデッキに連絡を入れていた。それを確認してエレベーターのドアを閉めた。
 そもそもミノフスキー粒子を散布していないのだから通信は生きている。つまり、二機とも通信ができない状態なのだろう。さすがに得体の知れない機体を艦にそのまま入れる訳にも行かない。
 MS越しに接触回線を開いて聞き出すつもりだ。白旗を持っているのだから突然襲われることもないだろう。

 デッキには数機のヘビーガンと二機のハーディガン、それと年代物のネモが一機、静かに出撃を待っていた。

「中佐、ノーマルスーツは……」
「着ねえべ。それより、おめえさのハーディガン色塗り途中だけんど」
「構わねえぜ。悪いないつき少尉」

 銀色の髪をした天才メカニックは目を逸らす。その視線の先には、政宗のパーソナルカラーを所々に纏ったハーディガンがある。
 紺を明るい青に塗り変えられたそれは指揮官仕様機だ。更に政宗の趣味で艦で出来る程度の改造や、木星航路ということを考慮したバーニアの増設、それにともなうメインエンジンの強化が施されている。

「まだどっか塗るのか?」
「おめえがいいっつうなら、もう塗らね。どうすっか?」
「ummm……そこはアンタに任せる」
「解った。……カタパルト用意できたみてぇだ。早く乗ってけろ」

 見上げればすでにコックピットは開いている。床を一回蹴って取り付いた。身を守るノーマルスーツを着ない政宗にメカニックや他の兵たちが畏怖を込めた視線を向ける。
 彼らに全く注意を払わず、政宗はハーディガンを発進させた。

「ハーディガン、政宗。出る」

 その声に応えたのは、オペレーターではなく艦長だった。







 接触回線から聞こえる声に幸村は目を開いた。ぼんやりと空を漂っていた意識が一点に収束していく。広がり続ける宇宙の虚無を感じていた心が、コックピットに座る男へ縛り付けられていく。
 そうして、真田幸村は目を覚ました。

「大丈夫だ、起きている」
「『良かったー、旦那が応えないから心配しちゃったよ』」
「すまぬ…………傷が痛むのでな。“逃げて”いた」

 息を吐いてシートに身を預ける。脱走する際に受けた脇腹の傷がじくじくと痛んだ。この痛みを紛らわすために意識を飛ばしていたのだが、予想以上に長い時間がたっていたらしい。
 連邦軍の艦がここを通ることを知り、脱走してきたのだ。あの地獄から。

「『……そろそろ時間だぜ。用意はいい、旦那?』」
「ああ。撃ち殺される用意もな」
「『違いない。でも、ま、やれるだけやりましょか』」

 通信機の壊れたこのエレバドと、同じく通信機の壊れた佐助のバタラ。不審機として撃ち落とされても文句は言えない。

 近付いてきた艦の光に、幸村は目を細めた。なびかない白旗を掲げ、艦橋に接近する。制服を着崩した男が一人エレベーターに向かっているのが見える。
 やがて一機の青いMSがカタパルトから射出されてきた。

「………………?ニュータイプ能力者か?」
「『アレが?』」
「解らん……だが、そんな気配がする」

 そのMSは躊躇いなく幸村に近付くや、エレバドの肩にマニピュレータを置く。突然の急接近にも急停止にも危なげなところはなく、一瞬置いて接触回線が開かれた。

「『名前と所属、階級を言え』」

 低めの男らしい声だ。背筋がぞくりとする。自分の反応にあきれながら、命令しなれた声に応える。

「真田幸村、木星……帝国。少尉であります。友機は猿飛佐助軍曹」
「『木星帝国……だと?』」

 また、だ。声を交わす度に背筋が震える。この感覚には覚えがあった。
 思わず体をシートから浮かせてしまい、脇腹の傷が疼いた。そのとたん、相手から動揺が伝わる。

「『怪我……してるのか、アンタ』」

 コロニーでの訓練よりも生々しい交感。これが本当の、と思った所で接触回線が閉じた。どうやら佐助に訊ねることにしたようだ。
 傷の疼きと初めての交感の衝撃から逃げるように、幸村は再び虚空へ意識を広げた。







「ここは」

 また瞼を上げるとそこは白い部屋だった。あのまま気絶してしまったらしい。ノーマルスーツは脱がされて、病人が着るような衣服を着せられている。脇腹の傷は手当てされ包帯が巻かれていた。
 無事に地球連邦軍へ逃げ込めたようだ。息を吐くと、幸村は瞼を閉じようと――。

「起きたか」
「貴殿は……」

 整った顔の男だ。右目はアイパッチで見えない。その左目は強い意志を持って幸村を見つめている。
 その瞬間に、幸村は悟った。彼に触れれば、本物かどうか解る。

「伊達政宗。階級は中佐だ」

 声に聞き惚れつつ、魅入られたように手を伸ばす。その手が政宗に触れる前に、政宗が幸村に手を伸ばした。







『肉体強化しかしていない……地球の重力に耐えられる程度の、だ』

 誰の声だ。アースノイドである政宗に地球の重力は関係がない。だがその声は確実に政宗のことを話していた。
 いや。政宗では、ない。

『では、なぜニュータイプ能力を』

 宇宙に適応した新しい人類。政宗は時々、艦のクルーや兵に自分がそう呼ばれているのを知っている。
 自分ではそんなことは全く思っていないが、昔から勘だけは良かった。瞬間、政宗は閃く。あの、得体の知れな

いMSに乗っていた青年だ。接触回線越しにすら、何か不思議な雰囲気を出していた。

『元々の素質であろう。良いパイロット、ひいては……』

 銀色の天井が薄れていく。
 ここは木星の、いや彼の言葉を借りれば木星帝国のコロニーなのだ。

 真っ白な壁が目の前にあった。寝ていたはずの体が今は直立している。訳が解らずに目をしばたたかせると、下からむくりと何かが現れた。
 先ほど受け入れた脱走兵の青年だ。まだ幼さを残した顔は、少年と変わらない。伸びやかな肢体には効率よく筋肉がついている。軽いブラウンの髪は後ろ一房だけ伸ばされていた。名前は真田幸村だったか。
 そうだ。彼から手を伸べられ、思わずそれを取ってしまった。ここは政宗が指揮する部隊の艦である。木星帝国のコロニーではない。
 あの記憶は……彼のものなのだろう。なぜそれをみたのかは解らないが、仮説は立てられる。しかし認めるのは気恥ずかしい。
 幸村は何かを呟くと顔を上げた。そしてにっこりと笑う。

「素晴らしい妹御をお持ちですな。さぞや誇らしくありましょう」

 艦でも数人しか知らないはずの事実をあっさりと言ってのける。それはあの交感が嘘ではないことを示していた。
 手を触れただけでああなるとは、確かに人類の革新だ。動揺を抑えて幸村の顔を見れば、嬉しそうだ。頬が上気して薄い桃色になっている。

「ああ。自慢の…………メカニックだ」
「貴殿の支えがあってこそと感じます。羨ましい絆です」

 優しい声だ。優しさは痛みを知る人間にしか与えられない。幸村の優しさは失うことから作られたものだということを政宗は知っていた。
 ニュータイプとは戦いにおける超能力者だと捉えていた。だがこれは違う。
 拓けた視界は戦いに意味を見いださない。しかしそれを理解できるのは、ニュータイプ同士だけなのだ。

「そんなことはありませぬ。人は他人を理解しようとする心を持っています」
「Ah……あの軍曹か。ま、俺にも解らなくはない」

 とりあえず、と政宗は考える。幸村が脱走した理由も彼に全く害意がないのも解った。政宗と幸村にしか通じないが、やりようは幾らでもある。

「悪いが、見張りだけは立てさせてもらうぜ。あとは……」
「それだけでも構いませぬ」
「いや…………、いや。とりあえず休め。アンタがここに来た理由はそれから詳しく聞こう」

 幸村の顔が陰ったがすぐ笑顔になる。医務室のドアをくぐるときにはもう、寝息が聞こえていた。




やっちゃった感満載です。続き……書けたら書きたいな…………。ハーディガンはかっこよくて大好きです。



「slipslop」


 路地裏に面した階段室の窓から、一人の少年が顔を出した。左右を確認し路地に誰もいないことを確認すると、息を吐く。
「今日も、いない……」
 肩に提げた鞄のストラップの位置を直すと少年は顔を引っ込めた。そのままビルの玄関へと向かう。薄暗い中ポストを確認すると、闇色に染まった路地へと出た。
 彼は元気だろうか。病気などしていないだろうか。せめて会えなくなる前に名前だけでも訊いておくべきだったと悔やんでも遅い。携帯の画面を見つめても、名前すら知らないのだから連絡先などいうまでもない。
 彼があの路地裏に来てくれていたからこそ、関係は維持されていた。自分は何一つ知らないが、同時にたくさんのことを知っている。たとえば、笑うときに眉根を寄せるだとか、少し掠れた低い声だとか、吸っていた煙草の香りだとかそういうことは人一倍よく知っている。
 我侭を言ったときに、困ったように笑いながらそれでも「いいぜ」と言ってくれるあの彼が、そう、自分は…………。

 少年が去った後の路地裏に、一枚の新聞が舞い落ちてきた。三面の記事には、一人の青年が死んだ事件が載っていた。




運命ではない出会い方でもダテサナしよう!なんですが間違えた。



「ディアマンテの毒」


 コンクリートの壁が、陰鬱な気分に拍車をかける。喉が渇いているが、彼の家で何かを口に出来るほど自分は盲目でもないし馬鹿でもない。きた時に出たコーヒーもきっと何かが入っているのだろう。
 寒々しい壁にひっついてる棚を見る。固定されて取り付けられた棚には、綺麗にラベルを貼られ分類されたビンが並んでいる。

 それらは全て、毒だ。

 毒に魅入られる人間は多いと聞く。しかし彼のコレクションは魅入られているというレベルを超えている。全ての部屋に作り付けの棚があり、そこにありとあらゆる毒が集められている。地上二階、地下一階の家の壁全てにだ。例外は浴室と窓だけである。
 ため息を吐いて、コーヒーのカップを持ち上げた。持ってきた薔薇の花束にかけてみれば、案の定。茶色くなった薔薇の花束をゴミ箱へ投げると、買ってきたペットボトルを取り出した。

「新しいコレクションだったのだがな。気に食わなかったか」
「アンタが出すものを口にする勇気なんざねぇよ」
「ふふ、俺も政宗が通ったあとの道を通る気はしない……同じことか」

 不思議なことに、彼は一人も殺したことはない。毒殺魔などといわれているが、彼がここにある毒を振舞うのは癒すときだけだ。彼は犯罪者である、人の生き死にを支配することには変わりはないにもかかわらず。
 優秀な麻酔医だったという彼は、唯一の話し相手でもある。素性を知ってもなお変わらずに付き合うことの出来る友人とは得がたいものだ。

「で、何があった」

 床に座って見上げる彼は、不思議な色をした瞳を煌かせた。メガネのレンズ越しに見える瞳は相変わらず美しい。
 目が心の窓ならば、彼の心は澄んで底の見えない湖と同じだ。

「廃業時か、なんてな」
「弱気とは珍しい」
「解ってるんだろ……どうせ」
「壊すものがなくなったのか?」

 下を向いて笑うと、彼はコーヒーカップを抱えた。上目遣いに見て、また笑う。この顔は苦手だ。だが、こうやって彼に笑ってもらうことをどこかで望んでもいた。
 不意に彼が手を伸ばした。額にかかっていた髪をかきあげられる。

 指先は暖かかった。

 その手を取ると、指先にキスをする。出来ることなら唇にキスを贈りたかったが、彼の口に入るものすべてに彼は毒を仕込んでいる。その身自体に毒を持つ彼は、また寂しそうに笑った。

「ああ、守りたいものを」
「アンタだよ」
「俺などに構っても未来はない」
「嘘をつけ。アンタが一番解ってるんだろ」

 壊してしまいたいと思った世界全てが、彼を基準に置くだけで愛しいものに変わってしまう。
 死んでもいいから口付けたい。そう思ってしまうのだから、破壊することはもう出来ない。

「アンタも、毒なんか飲むの止めろ」
「……傲慢な」
「俺が死んだら、アンタ泣くだろ」

 涙がほつり、と落ちた。それを掬い取れば、彼の手が止める。
 仕方なく、政宗は静かに涙を流す幸村の頬に口付けを落としたのだった。




爆弾魔政宗×毒殺魔幸村というなんか謎の組み合わせ。合同サイトの拍手お礼でした。