花に罪 暗渠に朽ちた正義よ(死ネタ) 切り取る菊花に香はしおれ(死ネタ含)
天つ火を渉る風の足に(現代パラレル) さよならを超える己への嫌悪感

「花に罪」


 是とゆう唇が世界を潤しゆくのならば

 手にある桜の枝が無駄にもなりましょう




「花泥棒は罪にならねえ、ってか?」
「笑いさんざめいて花で貴方を討ち取りましょう」
「Ha!そいつぁ、いいな」

 肯定しないで欲しいと願った。
 桜がひらひらと舞い落ちていく。

「おーおー、花が泣いてるぜ?」
「貴殿が」
「STOP。そこからは、言わなくていい」

 その残酷なまでの優しさが、自分を絡め取っていくのを彼は知らない。
 否定してくれれば、幸村は彼を捨てることが出来る。しかしきっと、捨てられはしても逃れられはしない、愛から落ちる罪悪感に。

 その苦さを、政宗は知っているのだろうか。

「苦さなど、とうに知っておられるのでしょうね」
「どうだかな」
「言い訳を下さるのも、そのためか」
「鈍くはねえんだな、案外」

 手が絡み付いて離れないと、被害者の顔をしていればよいと唆す笑顔。

 どうにもならない。
 ため息が幸村を攫った。




殺伐乙女系。特技です。



「暗渠に朽ちた正義よ」


 崩壊。
 そう呼ばれるのが正しいのだろうか。私たちは特に何をしたかったというわけでもなかった。もちろん、崩壊させようなどとも思ってはいない。
 いや、もしかしたらそれは私だけなのかもしれない。すでに彼と私は別のものになってしまっているから。

 完全なる左右対称として私と彼は出会った。私たちは元は一つだった、そう思えるくらいの共鳴。レゾナンス。炎のような戦闘の中で、雷に打たれたかのようだった。相対した時の心のざわめきを、私はいまだに覚えている。
 まるで救われるようだった。欠けていたものがすべて目の前の彼によって満たされていくのだから、当然だろう。確かに私たちはあの時、お互いを自分として感じたのだ。

 それからしばらくは、穏やかな日々が続いた。一緒にいることが自然だったし、離れること別たれることなど考えもしなかった。ただ日々を共に過ごし、泣き、笑い、遊び。
 愚鈍な私は何も気付かず(彼の苦しみに、気付いていれば!)怠惰に日々へ溺れていた。彼の気持ちなど知らず、同じだと思い続けて。

 そして私は、自分の愚かさを知ることになる。

 振り払われた彼の手によって。

 何億と後悔しただろう。何故彼の言葉を聞かなかったのか、いや、彼の気持ちを知ろうとしなかったのだろうかと。
 彼は私を憎んでいた。己の存在を賭けるように、私を憎んでいた。

 私たちは一つだった、しかし今は二つだ。

 不協和音を奏でる、私と彼の想い。元は変わらなかったはずだ。しかし今は変わってしまった。それでも私は彼を自分のように思っている。彼の心を癒したいと願っている。いっそのこと、彼を癒すのは私でなくてもいい。私が願うのは彼の救済であり、それが私の死をもって為されるなら。




「ころされにきたのか」
「それがしのしをもって、そなたが救われるのならば」
「おれはあんたのそういうところが」
「それがしにも、よくはあります。それがよくにみえなかろうとも」
「救いなんかいらねえよ。おれがもとめるのは、ただ」
「それがしのしであろう?こわがらずともよい。それがしはあたえよう」
「はぁん。よめたぜ、あんたのはらが」
「すきだ、まさむねどの。そなたはどうか」
「……おれには、わからねえ。だがあんたのそれ、は」

 二人の間を風が通り抜ける。

「わるかねえと、おもうぜ」




 愛しているか、と問われれば是と答えた。彼は確かに私の半身だった。それ以上に私は彼を憎んでいたのだが。
 何故憎んだのか。それは簡単だ。
 彼は私にないものばかり持っていた。たとえば、その身を飾る艶やかな炎や健康的な笑顔、健全な精神。私が彼のそれらを目にするたびに、どれだけ惨めな気持ちになったか解るだろうか。彼のそれが私にもあれば、私は少しだけまともな世界を生きることができただろう。

 私の半身として彼はすばらしかったし、誇りでもあった。彼と過ごした日々は心安らいだ。

 しかし彼が輝けば輝くほど、私は。
 なぜ、与えられなかったのだ。私には。共鳴する私たちだが、確実に違ってしまっていた。彼を消さなければ私は消えてしまうだろう。その、強すぎる輝きのせいで。

 終わりはやはり戦場だった。彼の炎のような瞳が私を貫いている。私の手に握られた刀は彼の身体を貫いていた。
 ああ、あのしなやかな身体を私は貫いた。死をもって。彼は安心したように微笑んで、私の顔にそっと触れた。輝きは消えてしまう。私の愛した輝きが消えてしまう。

 だが、やはり私たちは一つだった。

 彼の手がわた し の   。




 首を絞められて殺された死体と、腹を刀で貫かれた死体。それは誰にも見つからずにただひっそりと朽ち果てていった。
 その二人のことを知る者たちは誰一人として二人を探そうとはしなかった。

 暗渠に朽ちる正義の行方は、誰の目にも明らかだったからだ。




ネタ元は金寺のBlind Justiceでする。



「切り取る菊花に香はしおれ」


 時折、その光が見えなくなることが有る。
 光を失った少年の瞳は蜻蛉玉のように麗しいが、それは即ち人のいろを剥ぎ取られているからなのだ、と男は思った。
 隷属し、傅き、守り、庇護され、そして。

 そして、少年はおにに成り。

 男は虚を噛む。おれはこれから、少年から搾取し彼を変化させてしまう。
 だが、それこそが男の小さき脳が望むことであり、取ってつけた言い訳など耐えることを知らなかった男には偽善でしかない。

 おれは、これからこいつを喰らうのだ。こいつがこいつであるその蜻蛉玉を。

 気付かずとも、男は知っている。泣き喚く子供を胸に飼う己よりも、蜻蛉玉と成ってただいろを映す少年の腕こそ慈悲を宿している、そして慈悲を求める己をもその腕は。

 救うことをしてくれるのだと。




 幸村は首をかしげた。

 楓の木に寄りかかる政宗は、ぶすっとした顔のまま横を向いた。その動作が可笑しくて、思わず笑ってしまう。

「……、悪ィかよ」
「そんなことは」

 数日前にどこからか送られてきた楓は、すぐに城の馬場に植えられた。すっかり根付いて、美しく赤に染まっている。
 勿論、幸村は誰からか解っていた。だからこそ植えたというのに、政宗は幸村が何の行動も起こさなかったのが気に召さなかったらしい。

 行動もなにも、植え替えて落ち着いて、文をしたためようかという所で贈った本人が来てしまったのだ。まったく、せっかちだ。

「なんで、馬場に植えたんだ」
「ここならば、某の部屋からも見えるゆえ」

 くすくす、と忍び笑えば、政宗はため息をついた。手を幸村に差し出してきたので、握る。第一声が「俺が嫌いなのか!?」なんて、本当に彼は。




 自分の手を舐めた。睨むように眺めてから、もう一度だけ舐める。
 血の味はすでに薄れていた。甘ったるい、神経に障る鉄錆の、神経を冒す悪魔の美味。執着する愛を壊したのは己の手だった。いや、愛も執着とするならそれは、相手を許さない執着だった。
 彼は自分だ。何かの間違いで分かれてしまった自分自身だ。だから、お互いを求めていたのだ。いつか、一つになるのは当然の話であった。
 狂っているといわれる。そうでもない、と思う。
 もう自分は一人ではない。味気のない壊れて狂って崩れきった道も一人ではない。
「見ろよ幸村、紅い花が咲いているぜ」
 たとえその道に咲く花が、死人花であったとしても。




 約束の日はまだ来ない。祈るように空を仰ぐ。
 約束したのはまだ暑い夏の日だった。それからもう何日、何ヶ月、いや、もしかしたら何年。あの日最後に別れた丘で待っているのだ。
 ふわり、ふわりとちらつく雪。虹色に光を跳ね返すそれは、周りで立ち尽くす人々には見えていないようだった。くすり、と微笑む。
 まだ待っていると知ったなら、相手はどうするだろう。莫迦だと罵るだろうか。
 すっかり様変わりした丘の上で自分はただ待ち続ける。
「政宗殿、遅う御座いましたな」
 幻覚の雪の中、浪速の坂の上で。蒼を纏い己を手にかけた愛する人と出逢うために。
 笑顔で、彼を迎えるために。




自縛霊=純粋な想いという妄想。早く逢いに行ってやれよ筆頭ー!ネタ元は道化師の曲です。



「天つ火を渉る風の足に」


 長い間、隠してきたことがある。それは彼に対しては一つや二つではなく、数えてみれば約十個ほど。勿論、悪意があってやったことではない。
 彼は知ることを制限されていた。

 自分にとって大切な人にとって、自分が不利益になってしまう場合どうすればいいだろうか。この疑問に幸村は答えることが出来なかった。
 だから、いまのこの拗れた状況は幸村にも責任がある。

 目の前に座っている彼を見る。
 幸村の属す組織の中でも、トップに近い場所に座るその男はどこか空ろだった。当たり前だ、信じていたはずの男に彼は裏切られてしまった。いくつかの事実を知らない彼は、そうとしか事象を捉えられない。
 十数年の時間すら圧縮されてしまう二人の信頼は揺らぎないはずだった、と彼は語った。うわついたファーストフード店で背広の男二人が重い空気でハンバーガーを頬張っていた、その時だ。十数年、彼は探し続けていた。そして信じ続けていた。

 裏切ったわけではないことを、幸村は説明できない。
 語らないでくれと頼んだ気持ちを痛いほど幸村は理解している。その必死の顔も、瞳の奥の痛みも。

 どうすれば、この状況を打開できるのだろうか。
 一人の力ではどうにも出来ない。しかし幸村も同じく、毒をその身に内包する人間だ。ならば、と嗤う。

「毒をもって毒を制せばよい」
「……幸村?」
「政宗。全て起きた事象を知りたいなら、手伝おう」
「手伝うって……確かにお前の管轄だろうけど」
「小十郎殿は俺がなんとかしよう。政宗には一人、制してもらいたい男がいる」

 その名前に、政宗は眉を顰めた。
 蚊帳の外にやられ続けた彼には、その人物の危険性は全くわからないに違いない。滑稽だ。実に、滑稽だ。嗤う男の声が聞こえた気がした。

「お前は何をするんだ」
「それは……とりあえず、ここを出て話そう」

 たとえば、隠してきたことの中には幸村自身が持つ毒もある。
 それをここで彼に示したならば、もしかしたら彼は自分を遠ざけるかもしれない。それでも、彼と、彼が信頼し続けていた男の関係は修復したかった。身に覚えのある焦燥と絶望と虚無を、政宗にも味わわせるのは厭なのだ。
 道を違えた人のことを思い出し僅かに胸が痛む。だが、幸村の顔に映されたのは笑顔。

「幸……?」
「政宗。俺は、どうなってもお前が好きだから。それだけは忘れないでくれ」
「ばか、いきなり……!」

 真田幸村、組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課警部補。突然の告白にたじろぐ恋人を、底の冷えた、しかし暖かな瞳で見遣った。




筆頭がキャリアっていいよね!と一人で盛り上がってこうなりました。幸ちゃんは要はマル暴とゆうやつです。



「さよならを超える己への嫌悪感」


 自分が残ったことについて、彼は何の意見もないようだった。

「死は等しく、人死なずことはなく。ならば、それは天の命でありましょう」
「……幸村」

 目を閉じて政宗の胸によりかかる少年は、一言そう呟いた。それは少年の手足であった忍びが息を引き取ったその翌日だった。じゃらじゃらと鳴る鎖は幸村をほの暗い監獄へと繋ぎとめ、体を休めさせることもない。
 しかし少年は、政宗の胸で満足そうにくつろいでいた。

「哀しくは」
「勿論、哀しい。ですが全てを」

 覚悟の上で生きております。

 うっとりと微笑んだ幸村の顔に、政宗は目を奪われる。
 いつか誰か死ぬこといつか自分が死ぬこといつか存在全てが消えうせてしまうことも何もかもを幸村は。
 厳然たる事実、煌々たる真実としてその身に刻んでしまっているとでも、言うのだろうか。

 いくさびととしては立派な心掛けだが、それを完全に刻んでしまうことは即ち人ではなくなるということと同義だ。

 だからこそ、彼は鬼なのだ。
 死者を別つ川をためらいもなく渉り、炎燃える地獄でもその顔はきっと安らかなままにあるのだろう。未練など綺麗に燃え尽きている。

 その鬼を愛した男は、やはり燃え尽きるのが最期なのか。
 幸村の髪を梳きながら、政宗は未来を憎んだ。




状況が読めない。