「おともだちができました」


 今日は、景勝さんに連れられて米沢と言うところに来ました。景勝さんは弁に優しいです。謙信さんは少し怖いけど、やっぱり優しいです。この間、兄上が会いに来てくれた時も二人とも優しくしてくれました。兄上が「もし人質生活が厭なら、私が代わりになるぞ」と言ってくれたけど、上杉のお城の人たちは優しいから、弁は大丈夫ですといいました。
 兄上は少しだけ寂しそうでした。「また来るからな」といって、幸村の大好きなお饅頭をこっそり置いていきました。





 景勝さんは米沢にお友達に会いに来たらしいです。お友達なのかな?でも、輝宗おじさんもやっぱり優しい人です。ふだんはあまり笑わない景勝さんが少しだけ笑っていました。輝宗おじさんは弁にたくさんお菓子をくれました。なんでも、輝宗おじさんの子供の梵天丸はあまりお菓子を食べないので、お城にはあまってるんだそうです。

 こんなおいしいお菓子を食べないなんて、もったいないなあ。
 おじさんたちは難しいお話をするらしいので、弁はその梵天丸のところに行くことになりました。





 梵天丸のお部屋までは、梵天丸の乳母さんが案内してくれました。政岡さんです。少し不思議な感じの女の人でした。姉上とは違う意味で綺麗です。
 途中で小十郎さんに会いました。すごく綺麗な人です。政岡さんとは姉弟なんだそうです。そういわれると、少し似ている綺麗さだと思います。姉上が会ったら喜ぶだろうな、と思いました。

 なんだか姉上に会いたくなった。でも、弁は上杉のお城から出られないので会いにいけません。今度、お手紙を出そう。

 梵天丸は今、あまり具合がよくないんだそうです。ついこのあいだまで大変な病気にかかっていて、少し落ち込んでいると小十郎さんが教えてくれました。だからお菓子が食べられないのですね、と弁がいったら、政岡さんと小十郎さんはくすくす笑いました。
 よく解りません。





 お部屋に入ると、中は真っ暗でした。「誰だ」と訊かれたので「於弁丸です」と応えたら、「真田か」といわれました。あまり元気そうな声じゃなかったのでまだ病気なの、といいました。

 梵天丸は少しビックリしたみたいでした。弁はお部屋の奥に座っていた梵天丸に近づいておでこに触ろうとしたのですが、梵天丸は弁の手を振り払いました。梵天丸は眼帯をしていました。目が悪いみたいです。
 触るな、ともなんとも言わないので、もう一度おでこに触りました。今度は少し首をすくめただけで触らせてくれました。熱はなかったです。

 お熱ないね、というと、不機嫌そうな顔になりました。あんまり弁のこと好きじゃないのかな。そうなら悲しいです。でも、ちょっと慌てたみたいな感じで「当たり前だ」といって弁にありがとうと言ったので、嫌われていないと思います。
 それから、いろいろなお話をしました。梵天丸はお菓子が好きじゃないんだそうです。おいしいのに。あと、異国の言葉を教えてもらいました。こんにちは、は「ヘロゥ」と言うらしいです。

 梵天丸のお部屋は寒かったです。弁も寒いところには慣れていたけど、梵天丸は火鉢を使っていませんでした。病気の何かと関係しているのかな。そうだったら、悪いな。

 だから一所懸命に寒いのを我慢していたのですが、やっぱり寒くて歯が鳴ってしまいました。そしたら梵天丸は「寒いのか」といって、少し怒ったみたいでした。大丈夫と言ったのですが、黙っちゃったので弁は謝りました。そしたら「何で謝るんだ」とまた怒ったみたいでした。また謝ったら怒られるかな、と思ったので下を向いたら、梵天丸は立ち上がりました。
 びっくりしてどこ行くの?と訊いたのですが、何も言いません。仕方ないのでさっきまで梵天丸がいたところを見ていたら、首に何かがかかりました。

 ふわふわして柔らかい。見たことない布でした。

 わあ、と言って弁が立ち上がったので梵天丸は一つの目を見開いて、そして、少し笑いました。良かった、嫌われてないんだ。そして梵天丸はひざをついて、弁にその暖かいふわふわの布をかけてくれました。
 異国のもので、「まふらあ」と言うそうです。お礼を言ったら、梵天丸は照れているみたいでした。「まふらあ」は弁にくれるそうです。





 今度また遊ぶ約束をして、弁は景勝さんと一緒に上杉のお城に帰りました。輝宗おじさんがおみやげにお菓子をいっぱいくれたので、景勝さんが少し兄上と姉上に送ってあげたらどうだ?と言ってくれました。
 兄上も姉上も、喜んでくれるかな。

 小十郎さんと政岡さんはお城の外まで見送ってくれました。

 後ろを振り返ったら、お城の上のほうで梵天丸がこっちを見ていたので、思いっきり手を振りました。
 今度はいつ遊べるかな。




幼馴染。