「境界例と月とミジンコ」
鬼の霍乱とか、部下が言っているのが聴こえた。
政宗は熱で朦朧とした頭を振る。寒い。
体調はきっちりと管理しているつもりだったがそうでもなかったらしい。確かにここ最近、やたら入り浸っている奴のせいで寝不足ではあった。
はああああぁぁあぁぁぁ、と深い深いため息をつきながら同じくらい深く後悔しても何にもならない。
「どうなさいました、独眼竜殿?」
能天気で明るい声が額への布と一緒に降ってきた。固く絞られた布は気持ちよくはあるのだが、心は浮かなかった。声の主を思い切り睨みつける。
「バカは消えろ」
「酷いで御座る!この幸村、独眼竜殿のためにこうやって慣れない事をしておりますのに!」
「いらねえから、帰れ」
病人の耳元で喋るな、という大原則すらこの男は守れないらしい。ていうかなんだ、その押し付けがましい態度はと政宗はぐらぐらとする頭を抱える。
コレ(で、十分だと政宗は常々思っていた)は甲斐の国主武田信玄の秘蔵っ子、紅蓮の鬼と持て囃されている真田幸村だ。何が楽しいのか解らないが最近政宗のところによく来る。
最初は歯牙にもかけなかった政宗だが、最近は完全に自分に懐き切っているらしいため無碍にも扱えずこうしてずるずると滞在を許してしまうようになっていた。
いつも通り明るい笑顔で政宗の世話を焼く幸村に、バカは風邪引かないというのは本当なのか、と少しだけ感心してしまう。大体風邪を引くなら幸村も同じ条件にあるはずなのだ。
それを思い出して政宗は更に頭痛を酷くしてしまった。
性格的な相性は殊更悪いように思えるのだが、体の相性はやたらといいらしい。認めるのは癪なのだが。今まで男女問わずに何人も抱いてきたから言えるが、屈託無い淫乱なんて初めて見た。すぐに何やら破廉恥だとか叫ぶから初心なのかと思いきや自分に限っては別らしい。
とは言え、どうやらそういう行為は政宗が初めてなのだ。少しだけ自分が相手で良かった、と安堵してしまう。
下手な相手にあたれば、裏で売り飛ばされて終わりだろう。
そうして幸村を気遣ってしまう自分に眉をしかめた。
「お辛いですか?」
「当たり前だろ……」
しゅん、と静かになった幸村に不覚にもときめく自分にも眉をしかめる。眉間に皺が付いてしまったら絶対に幸村のせいだ、と政宗は思った。
昨夜は雪が降っていた。雪見をしたい、というから付き合って縁側に居たらいつのまにか抱かされるハメに陥っていた。応えてやる自分も自分なのだ、と解っていたが政宗だってまだ若い。据え膳を放り出して食わないことは出来ない。
「申し訳ありませぬ……」
「いいから帰れ。心配してるだろーが」
「帰れませぬ」
「Ha?」
「ど、独眼竜殿のご快復を見るまでは、幸村帰れませぬ……」
ああ、どうしてそういう方向に、むしろこういう時だけ可愛いのだろうか。
しかし治す方法、治す方法と呟いている幸村に、どこか不気味なものを感じる。こういう悪い予感は当たりやすいのだ――往々にして。
そうだ、と手を打った幸村は政宗を見てにっこりと笑った。
「汗をかくと治ると申しますな!」
ああ。本当に、どうしてそういう方向に行くんだこいつは。あの忍育て方を完璧に間違えてないか。
冷や汗を浮かべて政宗は幸村から遠ざかろうとした。しかし風邪ゆえにいつもより判断力も何もかも落ちていて、いや落ちているせいにしたいのが本音かもしれない。
近づいてくる目を閉じた幼い顔は政宗の肉欲を惹きつけて、やまない。
「もと……もっと、強くぅ」
息も絶え絶えに求める声を無視し、愛撫の手を止める。「やぁ」と声を上げた幸村の額にキスを落とした。
体がいつもより熱い。熱のせいだろうか。
それよりも触れ合っている体のが熱いことを考えると、幸村の平均体温を測りたくなってくる。体を真っ赤に上気させ、瞳を涙で潤ませた相手はいやいやと首を振っていた。
唇を舐めて胸をいじくる。それで達しそうになる幸村の根元を掴んで道を閉ざした。
「いっやだぁ、ふ……ふぁっ、やぁだっ!」
幸村が体をひねるたび、繋がっている部分から音が洩れる。その体をひねる動きに合わせて深く突けば、体のぶつかる音に重なって幸村は声を上げた。
「や……っ、ヨすぎっっ」
「イイんだろ、こういう扱われ方のほうが」
「ど、どでもっ、イイそんなのぉっぉあ、奥来ちゃだめえ」
「アンタこういうとき言葉遣い幼くなるよな」
返事を待たずに口内を犯す。がくがくと政宗の突き上げに従って体を揺らす幸村はそれでも必死に政宗の舌に応えようとしていた。
「イかせてっ、イきたぁいっ、も……無理ぃああん!」
「アアン?」
幸村自身がほとほとと、とろりとした涙を零す。手を離せば白いものが勢い無く流れ出てきた。
「昨日散々出したのにまだ出るのかアンタは」
「い、いじわるはっ、やめて下されっ」
「スキだろ?いじめられるの」
「うあぅっく、あん、あふっ」
「って、聴こえてねえか」
自ら腰を振って政宗を求める姿は幸村と政宗しか知らない。それを共有していることに愉悦を覚えている自分に呆れながら、政宗は一際強く幸村の中を抉った。
傍らで寝転んでいる幸村の髪を梳いた。気分はだいぶ良くなっている。まさか、そんなと思いつつ手を額に当ててみれば熱は下がっていた。
ただし、横に居る幸村の顔がいまだに赤い。
「バカはお互いかよ」
「どうしたで御座るか?」
鼻声になってしまった幸村をとりあえずいままで自分が寝ていた布団に押し込む。本人にも「もらってしまった」自覚はあるらしく、大人しく政宗に従った。
鼻を啜り上げる音に何度目かのため息を吐く。がしがしと幸村の頭を撫でて、政宗は言った。
「治るまでは面倒見てやる」
驚いたように目を見張った幸村は、頬を紅く染めて「はい」と、それは嬉しそうに頷いた。
ロリ幸様降臨の巻。幸村さんの基本ステータスはむっつりすけべいなので淫乱はデフォだと思ってます。意味が解りません。
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