「厄介者のお話」


「ま、政宗殿」
「何だ」
「やめては戴けぬだろうか」
「厭だ」

 閨において、二人の人間がいる場合やる事は大抵決まっている。この夜、政宗と共に床に就いた幸村も、そのような行為を意図していたのだが。
 期待は裏切られた……とも言えなくはない。いや、多分期待通りの事の一種ではあるのだろう。多少形が違うがそれに含まれるのかもしれない。ただ、これは。武士としての矜持が声に出すのを許さないのだが、実際問題。

 非常に怖い。

「切らないで下され……」
「アァ?俺の腕疑ってんのかよ」

 政宗は顔を上げて幸村を睨んできた。その手に握られているのは、握り鋏。

「そう言うわけでは…………」
「だったら黙って任せとけって。大体アンタが怖い怖い騒ぐから慣れねェ道具使ってやってんだよ」

 今聞き捨てならない事を聞いた。鋏に慣れてないのか、この男は。

「慣れた道具でお願いする!!」
「あ、おいこら動くな!!」

 切れんぞ!と言われては、大人しくするしかない。そんな幸村に、政宗は溜息をついた。
 舌打ちをすると握り鋏を置いて懐剣を取り、鞘を払う。払う音に体を震わせた幸村は、それのほうが慣れているのですか、と呟いた。

「当たり前だろ。ほら股開け」
「は、ハイ……」

 渋々足を開くと、幸村は顔を手で覆った。怖い上に恥ずかしい。
 何で今突然に、下の毛の手入れなどされなければならないのだろうか。





 幸村の下に懐紙を敷き、懐剣でぷつり、ぷつりと長さを整えていく。他人のを整えるのは初めてだったので、政宗のほうも少し怖い。それでも、自分の情人ともあろう者がそのまま、という状態は許せなかった。

 政宗の呼気がかかる度、幸村は体を震わせる。それと同時に別の場所にも変化はあったのだがそこに今は注意を寄せるべき時ではない。……本当に?
 政宗は自問してみる。いや、そんなことは無いはずだ。

 思い悩む時間は短い方がいい、行動するのは素早いほうがいい。元より、閨の中で理性など必要ない。そういうわけで、政宗は行動を開始した。
 手が滑った、とでも言うかのように、刃を少しだけ幸村のモノに触れさせる。瞬間、幸村の体が強張った。

「悪い、滑った」
「脅かさないで下され……」

 幸村の声は既に泣きそうだ。その声はなんとも心地よく響く。段々と情欲が燃え始める。顔を覆っている幸村には見えないだろうが、政宗はとても楽しそうに笑っていた。

 また刃が掠めた。ほとんど嬌声と変わらない悲鳴が漏れる。少しずつ起ち上がってきたそれを、政宗は舌で突いてみた。

「ひゃあっ」
「いい声出すねえ」

 今度は舐めてみる。ついに幸村は泣いてしまった。指の隙間に涙が滲んでいる。ただ、その口は快楽を紡いで声を上げた。
 たまらなくなって、政宗は体を起こした。幸村の手を引き剥がし無理矢理口付ける。
 瞳を覗き込むと幸村は視線をそらす。

「終ったのですか」
「アンタのこの状態見て、暢気にやってられるか」
「な……!」
「作戦変更だ。抱いてから切る」

 幸村は顔を背けて悪態をついたが、気にする政宗ではない。口が開いたのを幸いと、舌を差し込んで蹂躙した。
 しばらくすれば、幸村も応えてくる。二人はそのまま獣のように互いを求め合った。





「終わりだ」

 幸村はほっと息をついた。政宗の刃物の扱いに疑問があるわけではないのだが、(彼の刀の扱いは芸術的だし)やはり怖い。幾ら鈍い幸村でも、先程刃が掠めたのはわざとだと解った。

「男でもコレくらい手入れはしておけよ」
「政宗殿がそう言われるなら……」

 大体このような場所、政宗しか見ないだろう。そう告げた所、政宗は頭を抱えてしまった。何故頭を抱えたのか全く解らない幸村は、今度佐助に手伝ってもらおうと考えていた。
 全くもって厄介かつ傍迷惑なカップルである。




下品ですね。