「Nobles Oblige」


「If I did also, are aware of that I love you,I didn't intend to meet you」
「……?どうしたで御座るか」
「However,I have met.I have loved you」

 幸村はたまたま、国境近くの山にいた。鮮やかな紅葉を見せる山々を眺めるためだ。勿論、国境の警備と言う仕事もある。

 国境に流れる河に差し掛かったとき、その対岸……つまり、彼の独眼竜の領土側に単騎で居る男を見つけた。敵ではあるのだが、近しい仲の独眼竜を。気軽に挨拶をしようと河のこちらに立ったのだが、幸村が口を開く前に政宗が話し始めたのだ。

「If being permitted,I would like to keep you to my side」
「その言葉は解らないで御座る。解る言葉で話してくだされ」

 政宗が良く使う異国の言葉は幸村に一切理解できない。政宗が日常的に吐く一部の単語ならばなんとなく理解が出来るのだが、全文を話されるとちんぷんかんぷんだ。

「何でもねぇよ」

 解られては困る、と政宗は自嘲気味に笑った。
 その笑顔に、幸村は胸が痛くなる。泳いですぐ触れられる距離なのに、触れることは出来ない。幸村には河を渡る覚悟がないのだ。

 政宗がいとも簡単に乗り越えてくるものを、幸村は躊躇う。それが二人の人間としての相違であり、距離。今までは幸村の世界は甲斐の国にしかなかった。それを広げてしまったのは対岸に佇む男と、自分だ。

 柵を痛いほど感じる。今まで感じたことがなかった自分は、きっととても恵まれていた。それを些細なものだと思っていた。越えられない壁ならば周囲に巡らされていたが、柵は越えようと思えば越えられる。容易いように思えて、実際容易いと思っていた、非常に難しい。

 転位していく自分の意識に、幸村は眩暈がした。

「教えてはくださらんのか」

 政宗は曖昧な笑みのまま佇んでいる。そして一転して普段の不遜な顔に戻り、馬を降りた。

「綺麗な山だな」
「…………ああ、この国の自慢で御座る」

 深い藍に紅葉の対比はこの甲斐ならではだ。四国くんだりからわざわざ見に来た男もいた。

「元親殿も気に入っておられた」
「Wut?アレも来たのか?」
「ああ。綺麗だと話したら、来たいと」
「Airhead......危機感ねぇな」
「えあへど?」
「バカだ、っつてんだよ」

 幸村は自分でも自分があまり頭のいいほうだとは思っていないが、はっきり言われると流石に傷つく。大体元親とは兄弟のように接しているのだ。政宗の頭は少し行き過ぎている。

「元親殿はそういうのではないで御座る!」
「じゃあ俺は?」
「……解っていて訊かれるのか」

 政宗は嬉しそうに笑った。しかし、すぐに馬に飛び乗り幸村に背を向けた。

「An opportunity was permanently lost」

 それが何を意味するのか、幸村には解らない。それでも、政宗をこのまま帰してはいけない事だけが解った。思わず河の中へと、政宗の背中を追って。

 水の音に振り返った政宗の見開かれた一つの瞳をしっかりと見据えて。

「独眼竜殿!」

 河の真ん中、深くなっている場所で足をとられ転びかける。意外と早い水流に、押し流されそうになる、が。

「Fuck!Bomboclat!!You suck!What a fuck are you doing!!?」

 馬で駆けつけた政宗の腕に掬い上げられた。一つしかない瞳は幸村への心配と、恐怖と、驚愕の色に染まっている。それと同時に、幸村は自分が今どこにいるかを悟った。
 政宗の腕の中。そして、河の真ん中。あまりの恐怖に、政宗に縋りついた。

 自分は今、境界線にいる。

「Ah……、まあ、ここがまだ限界だよな」
「独眼竜ど……の?」

 政宗は縋る幸村の背中に、手を回した。

「I want to be together with you.May it be good if paying anything therefore?いつか、アンタにこの河を渡り切る覚悟が出来たら」

 悟られていたと幸村は気付いた。自分の不安や何もかもを、政宗は知っている。多分、それがどこまでのものなのかを今日は確かめようとしたのだろう。

「アンタだけに辛い思いはさせねぇからな。俺も相応分を支払うぜ」

 それまでは、来てやる。告げられる言葉の重みに幸村は泣いた。政宗はただただ、その背中を優しく撫でていた。




幸ちゃんは柵があるから強い人だとも思います。